イーサリアムについて 支える技術と今後の可能性

はじめに

ブロックチェーンというと、ビットコインの技術と考えている方がほとんどであると思うが、ビットコインを超える機能を持ち、急激に存在感を高めているのが「イーサリアム」である。イーサリアムの需要は日に日に高まっており、今後イーサリアムを活用したサービス、プロジェクトに接する機会は増えていくと考えられる。

本稿は、イーサリアムのテクノロジーに着眼し、その仕組みと、現代のビジネスにおける事例、また今後の可能性を考案したものである。 イーサリアムはビットコインと同様で、単に投資対象として見るだけでは損をするのではないかと思えるほど、奥深いシステムが構築されている。イーサリアムブロックチェーンの情報はまだ少ないといえるが、簡潔に、正しい理解を得られるよう心掛け本稿をまとめる。

第一章 イーサリアム概略

1.1 イーサリアムの成り立ち

 Ethereum (イーサリアム)とは、2013年後半、ロシア出身のヴィタリック・ブリテン氏によって考案され、2014年7月にリリースされた。同氏はビットコインの根幹を形成するブロックチェーンというテクノロジーに感銘を受け、研究に勤しんだ結果、独自の着眼点からイーサリアムを導いた。

仮想通貨としての時価総額はビットコインに次ぐ第二位で、通貨単位はETH(イーサ)である。

イーサリアムは、ビットコインのブロックチェーンをそのまま利用するという形ではなく、弱点を克服し、機能を拡張した独自ブロックチェーンを作る動きとして登場した。最大の特徴は、スマートコントラクト・分散型アプリケーションの構築プラットフォームである。ビットコインや他の総合プラットフォーム型ビットコイン2.0プロジェクトの多くは、開発チームのみが記述・実装可能であったり、ブロックチェーン上でのスマートコントラクトプログラムの実行になんらかの制限があるのに対し、イーサリアムでは、ユーザー(一般人)が誰でも自由にスマートコントラクトの記述・実行ができるのが特徴である。それにより、イーサリアムは、仮想通貨としての価値だけでなく、プラットフォームとしても、ブロックチェーンの力をすべてのものに与えることになった。

1.2 イーサリアムの技術的仕組

1.2.1 分散型アプリケーションプラットフォーム

 イーサリアムの大きな特徴は、アプリケーション作成のプラットホームであることが挙げられる。これはイーサリアムの設計理念がブロックチェーンを利用した柔軟なアプリケーション作成プラットフォームであり、イーサリアムのブロックチェーンを利用することで、誰でもアプリケーションを作成することができるようになる。

上記から、イーサリアムを「世界のコンピュータ(ワールドコンピュータ)」と呼ぶ。ビットコインのブロックチェーンを利用して、アプリケーションを作成することも可能であるが、決済を主眼としているビットコインブロックチェーンよりも、イーサリアムは柔軟に設計されているため、幅広いアプリケーションを作成することが可能となる。また、イーサリアムはチューリング完全なプラットフォームを目指しており、「そのプログラミング言語でいろいろなアルゴリズムを使用できること」で利用用途が限定されているビットコインとは対照的な性質を持っている。

1.2.2 スマートコントラクト

 イーサリアムが提供する機能にスマートコントラクトがある。スマートコントラクトはその名の通り、「契約」を「賢く」行える技術であり、オンライン上の効率的な合意システムである。取引で行われる契約内容をブロックチェーンに記録し、その契約を自動的に実行することが可能となる。

Ex)AさんがBさんに1ETH送金。
1年後にBさんはAさんへ2ETHにして返す。

上記契約は、今までだと契約書を取り交わし、それを証拠として履行を求める必要があった。もし契約が履行されなければ、契約書を証拠に裁判を起こし、裁判所が判決を出すことで契約の履行を求めることができる。このような第三機関に頼ることは、費用と時間が掛かっていた。それが、スマートコントラクトを利用することで、最初の取引が成立した時点で不要となる。 スマートコントラクトの秀でている点は、中央管理者を介さずに契約内容を自動執行で行えることである。契約内容はブロックチェーンに記録され、ブロックチェーンの特性上、不特定多数のコンピュータや、サーバー上に記録される(不特定多数の人が見ることができる)ため、改ざんをするのは極めて難しい。従来の契約では不正を防止するために、裁判所が中央管理者として情報を守っているが、その必要がなくなり、管理のために要していた、コストと時間が削減される。また、契約者の捺印や署名も不要となるため、手間もかからない。そのため、ブロックチェーンの特徴である、不特定多数の人の目にさらされる分散型の情報管理セキュリティが保たれ、低コストでの契約管理、実行ができることになる。

1.2.3 ETH

 イーサリアムのブロックチェーンを利用する為にはETHと呼ばれる通貨を使用しなければならない。イーサはプログラムを走らせる燃料の例えでGAS(ガス)とも呼ばれている。ガスがなければ永久的にプログラムを実行することができ、ネットワークのパンクに繋がってしまうので、ガスという燃料により、システムを維持している。結果として、イーサリアムブロックチェーン上で多数のプロジェクトが実行されるとイーサ(=ガス)の需要が増え、イーサの価値は高まっていく。

1.3 開発ステップ

 需要、価値は高まっているものの、イーサリアムはまだ開発途中であり、現状は完成形とはいえない。 イーサリアムの開発は4つの段階に分かれている。

 
  1. Frontier(フロンティア)
  2. Homestead(ホームステッド)
  3. Metropolis(メトロポリス)
  4. Serenity(セレニティ)

①Frontierはベータ版のような位置付、②Homesteadは安全版の位置付である。③Metropolisの改良により、スマートコントラクト実装の簡易化、セキュリティ強化、プライバシー保護などが行われ、イーサリアムの利用がしやすくなった。④Serenityは、2018年内実施が見込まれており、承認アルゴリズムの変更が行われる予定である。

1.4 イーサリアムの脆弱性

 イーサリアムの魅力は柔軟性であるが、一方でその柔軟性がデメリットとなることがある。柔軟な分だけ、脆弱性を生み出してしまい、結果として度々攻撃に遭う危険性が高まる。周知の事実であるが、イーサリアムが分裂するきっかけとなったDAO事件はハッキングによるものだった。ハッカーに盗まれたイーサリアムを無効化にするハードフォークという決断を行った、イーサリアム関係者は賞賛すべきだと考えるが、同時に問題点も浮き彫りになった事件といえる。




第二章 イーサリアムを活用したビジネス

2.1 EEA(Enterprise Ethereum Alliance)

 EEAはイーサリアムでビジネスのためのアプリケーション作成を推進するプロジェクトの呼称である。2017年10月時点では500以上の企業、技術者が参加をしている。EEAはイーサリアム財団というイーサリアム開発資金を管理する非営利団体が商標を持っている。

 EEAでは製品を作成するのではなく、あくまでオープンソースプロジェクトで参加団体がイーサリアムを利用してアプリケーションを作成するサポートを行っている。EE(Enterprise Ethereum)という企業向けのイーサリアムブロックチェーンプラットホームを公開しており、それを企業が活用してアプリケーションを構築している。また、システム更新に応じ、サポートが行われる。

 参加団体が正しく情報を共有し合い推進されるプロジェクトのために、企業にあったサポートを行っているので、EEAが何かを生み出すわけではない。イーサリアムがこのプロジェクトに関わるのはイーサリアム自体の「世界のコンピュータ」としての役割を担う為の促進活動であると思われる。

 加盟している主な世界的企業には、Microsoft、intel、JPMorgan、INGが挙げられる。国内では、MUFGグループ、TOYOTA、KDDI等が参加を表明している。

2.2 イーサリアムの検証事例

ユニセフ

 ユニセフはイーサリアムのスマートコントラクトを活用し、資金移動に関する実験を行うことを発表した。寄付においては、自身の寄付金がどのように使われているのか不透明な部分があるが、ユニセフのウォレットアドレスは公開されているため、誰もがすべての活動を見ることができるようになり、透明性の高い運用が期待される。仮想通貨は1円単位の小額から寄付をすることができ、送金コストが低い為、寄付と相性が良いと言える。国境がない為、海外のプロジェクトへの寄付も簡単にできる。銀行振込やクレジットカード等で寄付するのに比べ、スピードやコストにおいて圧倒的な優位性がある。日本でも仮想通貨取引所のCoincheckがビットコインによる寄付サービスを提供している。

KDDI

2017年9月にKDDIが国内で初めてEEを利用した実証実験を開始したと発表した。この実証実験では、KDDIが「携帯電話の店頭修理申し込みから完了までの工程における、リアルタイムな情報共有及びオペレーションの効率化の可能性を検証」したと発表している。

 イーサリアムのような仮想通貨のブロックチェーンでは記録を残し、改ざんを防ぐ堅牢性を自動で行ってくれる仕組みがあるので、一括して修理から完了までの情報を管理できるかどうかを検証した。また、「携帯電話の修理の際、修理価格、機種変更価格、中古市場価格など異なるシステム間の情報をプログラムが自動判別し、最適な契約が行えるか」もイーサリアムのスマートコントラクトを利用して行えるか検証するとしている。

図1出所:KDDIニュースリリース

2.3 イーサリアムのプロジェクト事例

 Auger(オーガー)は胴元(運営元)なしで未来予測を実現することを目指している。プラットフォームにユーザーが参加し、未来を予測して、その予測が正しければ独自の暗号通貨REP(レップ)で報酬をもらえるという仕組み。

基本的な流れは「未来を予測する」「掛け金を投じて未来予測に参加する」「事実認定する」「配当が支払われる」の4つである。例えば「サッカーワールドカップの決勝戦で勝つのはブラジルかドイツか」というイベント対し予測を行い、その結果はレポーターと呼ばれる者たちが、実際にどのような結果になったのか報告を行う。Augurには供託金(レポーターになるために預けるお金)を出して、レポーターになる人が多数存在する。多数のレポーターがドイツの優勝を報告することで、優勝国はドイツだと認定される。レポーターは正しい結果を報告すれば、報酬をREPで受け取ることができ、間違った結果を報告すれば供託金が没収される。虚偽報告をしても報酬は得られないため、自然と正しい報告だけが集まり、成立する仕組みとなっている。

 イーサリアムには独自通貨を簡単に発行できる仕組みがあり、このようなブロックチェーン上で発行される独自通貨は「トークン」と呼ばれる。Augurなどのプロジェクトがトークンを発行するのは、運営資金を得る目的がある。トークンの利用が増えて、発行したトークンの価値が上がり、取引所で売買されるような存在になれば、発行したトークンを売却することで運営資金を得ることができる。これをInitial Coin Offeringの頭文字を取りICOという。




第三章 イーサリアムの可能性

3.1 イーサリアムの未来

 前項でも記述したように、イーサリアムを活用したアプリケーションは次々と誕生している。多くの団体がイーサリアムを活用したアプリケーションを発表し、ICOで資金集めをするケースが増えている。大企業もイーサリアムを利用したプロジェクト開発を進めており、今後ますますイーサリアムに注目が集まることが考えられる。

日本においても、イーサリアムのスマートコントラクトは金融業界を中心に、ビジネスを変革する可能性のあるものと認識されている。デリバティブ契約、不動産の登記など、契約を伴う取引活動全般で、イーサリアムのスマートコントラクトの活用が検討されているが、
それは取引プロセスの自動化によって、コスト削減やセキュリティの向上が期待できるためである。将来的には中央機関や金融機関を介さず、企業や個人間で取引ができるようになるとの期待がある。

3.2 考察

 本稿を作成するにあたり感じたことは、イーサリアムブロックチェーンについては注目を浴びていながらも、まだ情報量は少ないということである。書店に伺ってもビットコインブロックチェーンの書籍はあるが、イーサリアム専門の書籍は殆ど無いか、一部記載をされているに留まっている。テクノロジーとしての注目度はもちろんあるのだが、実際に研究、実証できている企業、サービスは限られている。

 内容に記載をしたが、あくまでイーサリアムは実験段階であるということ。イーサリアムアプリケーションが話題を呼んでも、そのアプリケーションが世に広まっていない。 今後そのようなアプリケーションが登場する可能性はあるが、現状ないのは事実。この点においては、先に基本的な構造、知見を得られたことは、私に優位に働くのではないかと思う。そして当グループにも着手企業が少ない為、まだまだチャンスはあると考える。

 決済のみに捉われず、あらゆる目的のために使える、分散型のブロックチェーンプラットフォームの仕組みを備えたイーサリアムでは、人々のやり取りが透明化され、より公平なマーケットが生まれる可能性が十分にある。今後も急速に進化するテクノロジーについていけるよう、引き続き動向を追い、知るだけでなくアクションを起こせるようになる。